はるかなる Milky way で
水瀬 悠里
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プロローグ
U 二人の騎士
V 三つの力
W 小さな協力者
X 最後の決戦
はるかなる Milky Way で
プロローグ
「わぉ!勇、観覧車!あれ乗ってもいい?」
暑さを吹き飛ばすように、気持ちのいい風があたしの横をすり抜けた。スカートのフレアーが、風に踊る。
「やっぱりな…言うと思ったぜ」
この笑顔、あたし大好き。
「またバレタ? ね、乗ろ?」
「わかったよ…」
初めまして!あたし、草原 藍、あと1週間で17才になる、高等部の2年生。
で…となりにいる、あたしの彼…椎崎 勇、18才の高等部3年。
受験生の彼を、あたしはまたまた呼びだして、この暑い夏のさなか、遊園地に来てるの。
ま、もっとも、ウチの学校は中学から大学までエスカレート式で、彼は優秀だから、甘えちゃっても問題ないかな…なんて。結局、彼の優しさに甘えてしまってるのよね。
勇は、あたしの歩く速度に合わせてゆっくり歩いてくれる。こうして歩いていても、周囲の女の子たちの視線が、妙に気になった。そりゃそうよね…視線の中心は、あたしたち、ううん、勇にあるんだもの。
背は183p、風に揺れる、栗色かかった髪。少し不思議な、瞳の色。あは、のろけちゃってる?
勇はフランス人とのクォーターだから無理もないんだけど、ルックス抜群にいいから、女の子の視線くぎ付け、間違いなし。
多分、こうも思っているはず。『なんで、あんな女とくっついている訳?』
……もう馴れちゃったけど、やっぱり感じる。あたしだって思うもの。何でこんなにすてきな人が、こんなあたしの所に収まっちゃってるんだろうって。
「藍、どうした?」
勇が、急に黙り込んだあたしに言う。
「あ、ごめん、なんでもない」
あたしの目をまっすぐ見て、勇は微笑む。
「馬鹿…おまえの魅力は、俺が一番よく知ってる」
「勇ったら…ありがと」
心を見透かされた恥ずかしさで、あたしは照れ笑いした。勇は、前からこういう力があったみたいなの。いろいろなことがあって、今はあたしにしか力を使えなくなってしまったけれど。
搭乗券渡して、階段昇る。女の子たちが、あたしたちを見上げてる。
「おい、藍、乗るぞ」
「あ、うん」
なんかとっても久しぶり…こうやってのんびりと勇と一緒にいるの。
「久しぶりだな、ここ。一年ぶりか?」
「前に来たのも確か夏だったわよね…。遊園地なんて、男の人は好きじゃないのに、あたしったら無理矢理付き合わせちゃって」
「いや、いい気分転換だ」
勇の微笑み…大好き。風がうなる。ゴンドラが揺れて、あたしははっと我に返った!
「いや〜〜〜…」
お、思い出しちゃった。あたし、高いトコダメなんじゃない。揺れなければ思い出さなかったのに!
「思いだしちまったか…」
勇、な、悩んでる。
「ゴ、ゴメン、やっぱりダメだったよ〜〜」
「ダメなのに、乗るか?普通」
勇が肩を抱いてくれる。あたしは空を見上げて、自分を落ち着かせる。だって、2人っきりになれる、大好きな空間なんだもん。
「勇だって、夏はダメなくせに」
お互い笑い合うと、ゴンドラはもう地面に近づいていた。勇の腕に掴まって降りると、目の前にハトが群がってる。子供たちが楽しそうにコーンを投げていた。
あたし達の目の前を、鳩の群が羽音をたててざぁっと飛び立った。そのとき突然、勇の体が引っ張られるような感じがして、あたしは思わず足を踏ん張った。
「どっ、どうしたの、勇」
「いや、悪い…」
勇は片手で顔を覆った。
「勇…気分悪いの?」
「少しな…気にするな」
あたしは勇を支えてベンチに腰掛け、ハンカチを濡らして勇の蒼醒めた頬に当てる。
「ゴメンね…こんなに暑い中引っ張り回したから… 」
たぶん、受験勉強中であんまり寝てないのに、あたしのわがままに付き合ってくれたんだろう。あたしったら、そんなことも気づかないなんて…。
「おまえのせいじゃない、休んでりゃ治るさ」
そういいながら、勇は軽く溜め息ついた。駄目だわ、ここじゃ。どこか日陰に…。
「勇、陽の入らないところで休みましょう。この先の公園なら、木陰があるわ」
「ああ…いいのか?」
「うん、もう充分遊んだもの。気にしないで。歩ける?」
「平気、歩けるよ」
あたしたちは遊園地を出て、公園の森に入った。涼しくて風通しのいいところに行くと、勇は木にもたれて座り込んだ。
「ゴメンね…勇、夏に弱いのに…昨夜も、あんまり寝てなかったんでしょ?」
「ああ、いい、気にするな」
勇はルーズに下げたネクタイを外した。こうしてみると…勇の視線や仕草って、すっごく大人なの。今さらおかしいけど…ホントに格好、いい。合ってるのよ、容姿と雰囲気が。
「おい…?」
あたしがあんまり長い間、勇にみとれてたから、勇、不思議そうにあたしに呼びかける。
「あ…ううん」
あー、まずった。この人の前で何か考えこんだりすると、それが伝わっちゃうのよ。ばれたかな?
「おまえ…何考えてんだよ…」
はぁー。ばれてしまったか。照れたように微笑む彼に、あたし、ぺろっと舌出して。
「気分はどう?」
「ああ、もう大丈夫だ。しかしなんかここ、おかしくないか?さっきの空気と感じが違う」
あたしが鈍感なのか、勇が敏感すぎるのか…あたしには、どこも変に感じない。勇はじっとあたしの足元を見てる。
「地面を見てみろよ、人の通った形跡がどこにもない。とくに木が生い茂ってる場所でもないのに…だぜ?」
勇はゆっくり立ち上がりながら言う。背と頭だけ木にもたれかけて、すこし遠くを見て。
「そういわれてみれば…変…かも」
「来い、奥へ行ってみようぜ、藍」
い…行くのぉ〜? 奥の方…変に暗いのよね。なんか…来る者を拒むような感じがする。
「もしなんかあっても、俺が守ってやる。心配しないで、ついて来いよ」
勇、さりげなくこういうと、微笑んだ。こ、この微笑みに弱いのよ、あたし。
「ほら、大丈夫だよ…行くか?」
「…ん…」
勇の腕をつかんで歩き出す。少し歩くと、何だかさらにうっそうとしてきた。国定公園なのに、こんなに昼間暗くっていいのぉ?
「勇、あの光…何?」
茂みの中から、鈍い光が漏れてる。なんかあの茂み、不自然なのよね…。
「不自然だな、人工的だ」
そういいながら、勇はあたしの前にさりげなく立つ。そして、しっかりとあたしの腕をつかむと、その茂みをかき分けて、中へ入っていった。
「勇、イヤだ、怖いよォ」
なんて言いつつ、心の中にすごい興味もある。そして。
「な??なんなのコレ」
思わず上げそうになる声を抑えて、あたしは目の前にそびえ立つ金属のカタマリを見上げた。
「宇宙…船??」
勇も小さな声で言う。
「ま、まさかぁ。勇、何言って…きゃ!」
あたしがさわったカタマリの壁が突然開いて、あたしはバランスを崩して倒れる。勇が素早くあたしをかばってくれる。…でも、何も起こらない。
「中へ、入ってみるか?」
あたしを助け起こしてくれながら、勇が聞く。な、なかへ??
「大丈夫…?」
勇の後ろにぴったりとくっついて中に入る。まっ暗で何も見えないけど、その中でひとつだけ、黄色く点滅するボタンらしき物体。
「あれ…あのボタン、なんだろ?ひとつだけ作動してるのかしら…?」
沸々と、好奇心が湧いてくる。…と。
「わっ!!」
誰も押してないのに、黄色い点滅が消えたとたん、中が一瞬にして明るくなる。部屋らしきところの天井いっぱいに、文字が映し出された。
“椎崎 勇、草原
藍。君たちは優れた超能力者として、全宇宙から選ばれた。私の名はファイエット星最高司令官ファイエット=キア、詳細は後に私の部下が伝えるはずだ。私たちの星はいま反物質星ローザスに消滅されようとしている。反物質の存在しない貴宇宙より、その強大なちからを私たちに分け、助けて欲しい”
……ちょっと、待って。いま、あたしたちの名前…それも、フルネームが映し出されてる。なんで? あたし達がココに来たのは偶然じゃなかったって言うの? 待ってよ。超能力って何? 勇には昔あったけど、いまはもうほとんど使えないのよ。あたしだって凡人なのに、そんなものある訳ない。ファイエット星? 反物質??
「超能力…何のことだ一体…?俺の能力のことは、藍以外もう誰も…」
もう、頭の中がめちゃくちゃになってる。勇も、かなり動揺していた。あんなにいつも冷静な勇が…。あたしたちが身じろぎも出来ず呆然としていると、いきなり、妙な感覚におそわれた。反射的に辺りを見回すと、スクリーンの真ん中から光が漏れて、そこに立体的な女性の像が出来上がった。
透き通るような肌に、薄い色の髪が足もとまで滑り落ちていく。驚いたことに、男の子を連れていた。
勇と同じくらいの身長。黒い髪に隠れた瞳は、とてもきれいな、淋しげな色をしていた。
不意に、流れるような声がした。でも、誰の口も動いてない。耳からと言うより、直接頭の中に響くようで、とても不快だった。
―――私はナルセス=ラフィーナ…突然のことで、理解できないのも無理はありません。こんな事をお願いするのは、あまりにも遠い宇宙系のため、私たちにもためらいがありました。ですが、優れた能力を持ち、遠い宇宙系であるという条件を満たしたあなたたちでなければ、協力を願うことは出来なかった。そして、それほど、状況は緊迫しています―――
あたしは、冗談じゃない、って言えなかった。きびすを返して、ばかばかしい、帰りましょう、って言えなかった。
「…ちょっと聞いてもいい…?あたしたちは、何で選ばれたの? 能力なんて持ってない。ファイエット星なんてこれっぽっちも知らないし、何の知識もない。なのにどうして」
しばしの沈黙のあと、ゆっくりとラフィーナが話し始めた。
―――宇宙のビッグバンによって銀河系が生成される際、物質と反物質が同等の数だけ出来ると、反物質と物質が引きつけ合い大爆発をおこして消滅してしまいます。あなた達のいる銀河系は、太陽系を含め何らかの原因で反物質だけが消え去り、物質の残った数少ない銀河系なのです。
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……逆に、反物質だけが残り、物質の消滅した銀河系も存在します。時空の関係からか、それらはお互い引きつけ合うことなく存在していましたが、時空の歪みにより、突然反物質が物質界に流れ込んできてしまったのです――― |
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急に、ラフィーナのテレパシーに感情がこもったような気がする。あたしはとっさに、もう一人、たたずむ男の子の存在を思い出した。
「オレが…」
消え入りそうな声だったけど、あたしにははっきりそう聞こえた。でも、あまりにも淋しげな瞳に、あたしはそれ以上聞いてはいけないような気がした。彼の台詞を遮って、あたしはちょっと強い声で言った。
「勇、行こう!」
驚いたように見開かれた勇の目が、まっすぐにあたしを捉える。
「藍、よく考えろ。俺たちだって安全とは言えない。お前は直感で行動する。悪い癖だ」
「だって、よくわかんないけど、行ってローザスとやらをぶっ倒さないと、この地球だっていつかは危ないんでしょう。それに、あたしの直感で何か危ない目にあったことなんてあった?むしろ、その逆だと思うけど?」
あたしは虚勢を張るでもなく、勇に言った。あたし、なんにも取り柄がないけど、自分の直感だけは信じられる。
―――協力して、頂けますか…?―――
少しの沈黙のあと、ラフィーナが返答を求める。
「待って。ラフィーナさん、その前に、あたし達の自己紹介をさせて。それと、あなたたちがつかんでる、あたし達の超能力ってどういうものか教えて?」
―――あなたたち3人で、一つのちからとなります。その能力は、ありとあらゆる可能性を秘めているため、私たちの研究でもはっきりとつかみきれないほどでした―――
「すごいわ。ありがとう、ラフィーナ。あたしたちが行くことを、早くキアさんに伝えてあげて!」
ラフィーナが微笑むように揺れながら消えると、あたしは男の子に軽く会釈。
「初めまして。あたしは、高校2年の草原
藍、そしてこちらが、3年生の椎崎 勇。あなたは?」
「オレは…岩城 隆一郎、17だよ…。さっきの…ラフィーナに連れられて来たんだ、よろしく」
伏せがちな瞳を上げて、彼は努めて明るくしているような口調で言った。
「うれしい。同い年ね」
「3人で一つのちからってことは、俺たちは半人前ってコトだな。半人前同士、うまくやっていこうぜ」
あは、勇、いいこと言うなあ。あたしたちお互いに握手交わして。
「ところでなあ、岩城…この船一体どうなってるのか分かるか?」
「隆、とか隆一郎でいいよ。…うん、分かるって言うか、どうにかなるかも知れない。やってみる?」
「お願いできる?岩城クン…いえ、隆一郎さん」
隆一郎さんは、あたし達が何も追求しないのも手伝ってか、初めて安心したような、子どもっぽい微笑みを見せた。
あたしはもう、何も考えないようにしていた。あたしの直感は、隆一郎さんは信じられるっていってる。必ず勇が守ってくれるし、あたしもこの命を懸けて、みんなを守る!
隆一郎さんは、操縦席らしきコーナーで、なにやらごちゃごちゃいじくりだした。
しばらくすると、ウィーンと言う機械音とともに、ふわっと浮揚感。エッ!動いてる!!
「すごいすごい、これ、動いてるぅ〜〜」
「うわぁ、藍さん、ひどいよ〜、オレの腕、信じてなかったなぁ〜〜?」
隆一郎さんが、ぷぅっとふくれて振り返る。
「あん、違う違う、初めてなんだもの、空飛んだの!」
窓際に歩いて行きかけたあたしの腕を、勇が軽くつかむ。
「お前、また忘れてねぇか?」
「あ」
そ、そうだった。あたし、高所恐怖症なんだった。勇、また呆れてる…。
「で、でも、見たいよぉ」
「知らないぜ」
おそるおそる、窓際に近づいた。あたしたちの町らしきものは、もう見えない。見渡す限りの水平線が、もう弓なりに見え始めていた。
「わぁ…キレイ」
「何だ、大丈夫じゃないかよ、お前」
「あら、ホントね?何でかな…ま。いいや、ありがたい♪」
―――リュウ、ご苦労さまでした。この船は自動推進装置が付いています。大気圏を出ると、私のテレパシーは届きにくくなりますが、リュウには一通り訓練してありますので、ご安心下さい。―――
また不快な頭痛の後、ラフィーナの声がした。ラフィーナは、リュウって呼ぶのね。
「すごい♪宇宙船操縦できる人なんて、なかなかいないわよ!!」
「アタリ前だろ…呑気なヤツだな、お前はホントに。でもすげぇぜ、見直した、隆」
あたしは勇に小突かれ、隆一郎さんはそれ見て吹き出した。そして、おもむろに片膝ついてしゃがみ、腕をひらりと回して、胸元に当てる。わぉ♪
「この命に代えても、姫をお守りいたします…なぁ〜〜んちって、似合うぅ?」
中世の騎士みたい、決まってる♪ あたしは、小さく拍手。カッコイイ!
「あのなあ、隆」
あー、勇のこの口調は。
「言いたかねぇけど…この船、今お前が操縦してんだったよな?」
隆一郎さん、一瞬キョトン。それから。
「わぁ〜〜っ!!」
めちゃくちゃ慌てて操縦桿らしきものを握り直す。ちょっとたって。
「って、これ既にオートだよ!!」
……もう、あたしは笑い死んだ。たっ、楽しい、この人。ううん、このひと、達。
「いま、離れても大丈夫?ここ」
やっと笑い終わると、あたしは隆一郎さんに聞いた。ああ、腹筋が痛い。
「うん、大丈夫だよ。あちこち見てみようか。見た目より中はずいぶん広そうだよ」
「じゃ、いこ」
観察、観察。まず、ココはメインルームみたい。天井に大きなスクリーンと、その真ん中に投影装置。
「聞いてもいいか?隆、どうやってここに?」
「オレ、君たちに会うために、この船でラフィーナやキアのいるファイエット星から来たんだ。君たちがこの船を見つけたのも、もちろん計算ずくだった」
「そっか。あのとき、ボタンを押したのは隆一郎さんだったんだ。ラフィーナの立体映像と、一緒に出てきたんだと思ってた…」
あたしはまた沈みそうになる隆一郎さんの表情を汲んで言う。
「お前、隆は生身の人間だぜ。ボウフラじゃあるまいし、どっから湧いてくんだよ」
勇、ナ〜イス、つっこみ。隆一郎さんの表情が和む。でもね、そんな笑わせないでよ。
「あははっ、ひどいなぁ……待ってたのが君たちで、ホントに良かった…。でも、これだけは、言っとかなくちゃ」
そう言った隆一郎さんの表情は、先刻までの揺れ動く心を映してはいなかった。
そして、彼はゆっくりと話し始めた。